ヘイシ ノ コクハク




「銃なんか使えたんだな」

「へ?」
サンジはジャガイモを切り分けていた手を止め、後ろを振り返った。
「だから、銃だよ。蹴りしか能が無ぇのかと思ってたぜ」
テーブルに肘をつき、手にしたコップの中身を揺らしながらゾロが笑う。
明け方、バロックワークスの女幹部に突きつけた銃のことを言っているらしい。
「あぁ・・・そう、だな」
サンジが視線をまな板に戻しながら生返事をする。
手を止めたまま少しそのままで・・・やがて、先程と同じ調子で包丁がリズムを刻み始める。
「なんで銃使ってなかったんだ?せっかく扱えるのによ」
「うちにゃ、立派な狙撃手がいるだろが」
「アイツ、銃は使ってねぇじゃねぇか」
笑って、ゾロは酒をあおった。
肩越しに振り返ると、「他になんかあるんだろ」とゾロの目が尋ねている。
サンジは困ったように小さく口角を上げると、ぽそりと一言もらした。
「キライなんだよ」
「・・・あぁ」
最小の言葉であるにも関わらず、ゾロはそれで納得したようだった。
サンジの背に注いでいた視線を、窓の外に見える水平線に移して黙った。
手の中で、空になったコップを転がして弄ぶ。
「じゃぁ・・・なんでさっきは引っ張り出してきた?」
サンジは溜息をつくと、体ごとゾロへ振り返りシンクに寄りかかる。
ポケットからタバコを取り出すと、いつもどおりの軌跡を描いて火をともした。
「グランドラインじゃ、手段選んでらんねぇかな・・・って思ってよ」
吸い込んだ煙を、細く縒って吐き出した。
「久々に持ってみただけ」
ニヤニヤと、人をバカにしたような笑いを浮かべる。
「で、感想は?」
ちらりとサンジの目に視線を合わせ、ゾロが真っ直ぐに言い放つ。
その言葉に、サンジは一瞬目をみはった。
が、すぐに元の調子に戻ると、にこりと笑って言う。


「最低最悪」


初めて人の命を奪った時、小さかった手には鈍色の機械が10本の指で懸命に握られていた。
細いその筒から走り出した鉛の玉は、それが何を意味するのかを自分で判断する間もなく空を割き、到達して捻じ抉り、赤い液体を引き連れたまま皮膚を肉をこじ開けて、そこに風を通した。
足元に崩れ落ちた肉隗は、どろりとした目を剥いて自分の姿を映し光を失った。
手元から立ち上る硝煙はこれ以上ないくらいに、鼻の奥をきつく突いた。
耳をつんざく破裂音と肘に響いた激しい反動は一瞬だけ駆け抜けると、何も自分に残さなかった。
肉を貫く感触がこの手に残ったのなら、えもいわれぬこの虚無感は罪悪感に、吐き出す吐息は自分が生きていることへの安堵の溜息になったのに。

この手で 殺せば よかったって思うんだよな。

なんでもない世間話をするように、振り返る自分の過去を笑って語る。
しかしその目は。
すがるように落ち着かず、くるりと揺らいでゾロを映した。

「あの銃は?」
「海の底」
「そうか」
「ん・・・」

一度吸われただけのタバコが、自らの火に煙をたなびかせ、
サンジの指の先で短くなっていた。
それを、ゾロがつまみ上げシンクに落とす。
落ちた先で水を含み、音をたてて赤みを失うと最後の紫煙を上げた。
それはあたかも、あの時視界を漂ったきな臭い硝煙のようで。
ゾロは揺らめいた煙を手で仰いで払うと、サンジの耳元に顔を寄せる。

「それでイイと思う」

子供を褒めるかように掌で頭をくしゃりと撫でられ、囁いて返された言葉。
こめかみにあたるゾロの短い前髪の感触に、サンジはくすぐったそうに笑った。
寄せられたゾロの頬に自分の頬を擦りつけて目を伏せる。
「おい」
「オチてんだよ・・・たまにゃ甘えさせろ」
もたれかかる体重を拒否するような物言いをしながらも、
ゾロはそのままサンジの体を支えてやった。

どうせなら この手で殺したかった 
鉛玉に貫かせるのではなく
この手が砥ぎ握った例えば鋭利なあの刃で
その消える何かの感触に震え 泣きながら

そうだったなら
きっと


end





谷川俊太郎さんの「兵士の告白」より連想。
読んだのはもう5-6年前のことですが、サンジさんの銃と被ったもんで。
とりあえず、命をとるなら銃は止せ、と。銃は簡単すぎますって。
・・・あら、社会派SS?(笑)
マンガにする時間が無かったので文のまま。いつか絵にしたいところ。
ところで、殺人モノだし一応「中」扱い。



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